的に向け、銃を構え…引き金を引く。
けれども、その的にかすりもせず銃弾は、そのすぐ脇を通っていく。
「ちっ、当らねぇでやんの…」
「何してるの、アリス」
「うわっっ…って、かよ」
耳を押さえながら隣に立つ女の顔を見て、ため息をつく。
「あのさ、うっさいなら来なければ?」
「だって、ずーっとガンガンガンガン銃の音が響いたら何事かって普通思うでしょ?で、何してんの?」
「…見りゃわかんだろ」
再び、的に向けて銃を構え…引き金を引く。
「あ、ハズレ」
「…お前がいるから気が散るんだよ」
「えー?あたし来たの今じゃん」
「集中力が切れたんだよ」
「あ、じゃあさ、じゃあさ。あたしにもやらせて」
「はぁ!?」
「だってほら、あたしだって銃使えた方がいいでしょ?」
「って、おい、待て!お前が銃を持ったって意味ねぇだろ」
「あるかもしれないじゃん」
「お前は、この世界に関われないって"ルール"だろ!」
そう、こいつがここにいるのは…俺がここにいるのと同じ。
アイツにとって2つ目の ――― あり得ない事態
「でももう皆と一緒に暮らしてるから、関わってる!」
「だからって、女が銃なんて持つな!」
伸びて来た腕から逃れるよう銃を上にあげる。
「離れろ!」
「1回、1回でいいから!」
「ざけんな!」
「ねー、アリスー!」
足元のでかい石の上に乗り、俺の肩へ手を置かれ…焦る。
ヤバイ…このままじゃ、コイツが銃に触れる。
「もうちょ…っ…と」
けど、無理に振り払えば、転んで怪我でもさせちまうかもしれない。
あああっ、もうどうすりゃいいんだよ!
そう心で叫んだ瞬間、手に持っていた銃と、肩に置かれていた重みが消えた。
「…おまえら、煩い」
「「帽子屋(さん)」」
「ガキはガキらしく、静かにままごとでもしてりゃいいのに……なんだこの騒ぎは」
「そんなガキに白ウサギ殺させるゲームに参加させたのは、あんたんとこの女王様なんだけど」
「ガキは単純だからな、丸め込まれたんだろ」
「帽子屋さん、帽子屋さん、それ!アリスのそれ貸して!」
「あ?」
俺が撃とうと思えば、相手を殺せる…
だから、お前が撃っても、何もならない、かもしれない。
だが、逆を言えば、何が起きるかわからない。
そんなもん…触らせたくなんて、ねぇんだよ。
「おい、これは菓子じゃねぇぞ」
「うん、知ってる!」
「だったら、余計に止めとけ」
「えーなんでー?」
さっきの俺と同じような質問をされている帽子屋を見て、少し口元が緩む。
お前も困ればいい、コイツのまっすぐな瞳と質問に少しは狼狽しやがれ。
けれど帽子屋は、いつもの面倒くさそうな表情を変える事無く、の頭に手を置いた。
「これはアイツのもんだ」
「うん」
「お前がこれを持ちたいのはどうしてだ」
「あたしも銃が撃てれば、皆を守れるから!」
「それじゃあ、持つ必要はない」
「どうして!?」
「お前が、そーいう場にいたとしたら、あの馬鹿が前に出る」
「はぁ?」
突然、指を向けられた上、あの馬鹿呼ばわりされて眉間に皺が寄る。
「で、動かない的にも当てられないアリスがおっ死んじまわないよう守る役を貰っちまってる不幸な男が俺だ」
「…おい」
「だから、お前が銃を持つ必要はない。お前が銃を持ったら、ただでさえ射撃も出来ない役立たずのアリスが更にお荷物になっちまう」
「おい、おっさん」
「アリス役立たずじゃないよ」
「それは、お前が銃を持ってないからだ」
「そ、そうなのかな」
「あーそうだ」
「って、勝手に丸め込んでるんじゃねぇよ!なんだよその、へ理屈は!お前も騙されんな!」
「ほぇ、へ理屈?」
「いいんだよ、騙しときゃ。嘘も方便とか言うだろ…っと、もう6時か、お茶会の時間だ。行くぞ、」
「おいっ、待て!!茶なら一人で飲んでろ!隠居爺!!」
「はぁ?そもそもお前がとっとと的を打ち落としゃ、コイツが音に興味持って出てくることもなかったって話だろ」
アイツが引き金を引いた瞬間、何度やっても落ちなかった的が音を立てて…落ちた。
「当てるつもりのない練習やら止めちまえ」
「…アンタが的だったら、瞬殺してやるよ」
「おー、そりゃ楽しみ、だ」
「首洗って待ってろ、このロリコン親父」
放り投げられた銃を受け止めると同時に構えたが、隣にがいたので…止めた。
「あーらら、アリスちゃん彼女持ってかれちゃったよ、帽子屋さんに」
「…彼女じゃね…って、いつからいた!?」
突如として隣に現れたチェシャ猫に思わず一歩退く。
「アリスちゃんが、ぼんやりのいる所を見ながら撃ち始めた頃かなぁ」
「…よーし、お前今から俺の的な」
「えー、僕痛いのは嫌いだなぁ」
「安心しろ、ラクに死なせねぇから」
「あはは〜やだなぁ、アリスちゃん。そんなことしたらあの子も悲しむよ?」
「あー、そうだな。嬉しくて泣いちまうかもな。世の中からストーカーがひとり減るんだから」
そして今日も、帽子屋の家の裏で銃の音がする。
当てるつもりのない…
当てているつもりの、銃の音
それは、アリスの声にも似ている
自分はここにいる、ここにいるのだ…と
いやはや…思えばこれが、Are you Alice?の最初の話、なのだろうか。
――― 多分
他愛無い会話の中に、どこか切なさが感じられる雰囲気がミジンコくらい感じられれば大成功。
アリスが家の裏で撃つ銃の音って、私はどこか寂しい感じがするのですよ。
気づいて…
って、言ってる声に聞こえて。
だから、それを感じて外に出て来たって感じです。
web拍手や日記でAre you Alice?の話をしていたらば、何名かが「それって何?」と興味を持ってくれたようです。
ふふふふふ…狙い通り★
そんな感じで皆が興味を持てばいいっ!!
ウェルカム!耳に心地よい低音満載の世界へっ!!←凄い間違えた誘い文句